とある山の中のそのまた山の中にストーブ設置と煙突工事へ行った。

幹線道路から外れ、軽トラックがやっと通れる道は舗装などされていなく、
至る所に斜めに立っている熊注意の看板だけが目に入る。
冬季間の積雪量はそれほどではないようだが、50~60㎝位は積もるようだ。
ご高齢のじいさんとばあさん2人暮らしの山の家。
10年ほど前、倅さんが街場へ新築した折に薪ストーブ設置工事をさせていただいた。
今回はご実家へ設置してくれと相談を受けていた。

倅さんが同居している頃から、ホームセンターで入手した煙突と鉄製の薪ストーブで
暮らしていたという。4~5年ごとに煙突とストーブは買替えていたというが、
その様は安全とはかけ離れているものだった。お世辞にも良とは言えない。
壁から出ている細い煙突は来るときに見た熊注意の看板の様に傾き、横引きがとても
長いために水平ではない水平部分の煙突からは黒飴の様にタールがポタポタと流れ出た
跡が幾所もある。

倅さんが新築をした時に同居しようと話をしたが、おじいさんは首を縦には
振らなかったようで、おばあさんもおじいさんと一緒が良いと話したという。
年老いた人の多くはそうかもしれない。
慣れ親しんだ場所から離れる事は辛いという。
住みやすい場所や住みよい家というのは家族であっても個々の意見や
考えは違って当然だ。倅さんは高齢の両親に楽をさせたいというが、
本人たちは古巣であっても楽をしていると草むしりしながら笑顔で話す。

私たちが工事をしている最中、薪割りをしたり草刈り機を背負ったり畑仕事に
精を出していた。夏場は日の出から午前9時頃まで働き、日中は家の中で
座布団を枕にして休み、午後4時位から日の入りまでまた働くという。
私の両親と重なり合う。

01

色んな樹種の薪がこっちにもあっちにも積み上げられていた。
全てこの山の恵みだという。
使い慣れている年季物のチェンソーと斧と楔を自慢そうに見せてくれた。
どれも最近造られたモノは一つもないが、これで十分だという。
人間も機械モノも刃物モノもガツガツ使ってはダメ、適当に休ませ
気遣いが必要だとグローブのような手にそれを持ち、女衆と同じだと
ニコニコしながら言う。

002


新しいとか古いとかそんなことはどうでもよい。
自分に合うか合わないか。
土のついた手で真新しいストーブを撫でながら、
 「 このストーブで、もう少し長生き出来そうだ 」と、
言ってくれた事が、嬉しかった老夫婦の家。